課題曲 Ⅴ ビスマス・サイケデリアⅠ/日景貴文
みなさんこんにちは!
トランペットを吹いたり教えたりしています、荻原明(おぎわらあきら)と申します。このサイトの管理者です。
さてついに最後の作品になりました。課題曲Ⅴはいつも通りのいわゆる「現代音楽」ですね。この手の作品、苦手な方も多いかと思いますが、一度はチャレンジしてみると、譜面を読む力やアンサンブル力がついたり、発見も多いものです。ですから食わず嫌いにならず「チャレンジしてみよう!」という前向きな気持ちで演奏してください。
[いわゆる「現代音楽」の取り組み方]
よく「指揮者に合わせて」などと言われることがありますが、それは指揮者の振る棒のうごきにぴったりと合わせなさいということではありません。そもそも、空中を漂っている指揮棒の一体どこがどこに来たときが拍のアタマかなどわかるはずもなく。そもそも指揮者とは人間メトロノームではありません。どのような役割なのか、課題曲Ⅳ「行進曲『道標の先に』」の解説に詳しく書きましたのでぜひご覧ください。
「指揮者に合わせるぞ!」と、指揮者依存している奏者は絶対に他の奏者とズレます。たまにコンクールでも見かけますが、ひとりひとりの奏者が全員指揮者を最初から最後までずーーーーーっと見ている団体があってびっくりしますが、指揮者の存在意義が理解できている人にとってはそんな意識の向け方が大勢でひとつの作品を作り上げる手段、考え方、方法として間違っているのは理解できるはずです。
ということで、まずすべきことは各奏者が「スコアを読み、場面ごとに自分と一緒に演奏するパートや楽器などをできる限り把握すること」です。そしてもうひとつは「スコアや実践で自分が演奏するタイミングのきっかけや参考になるパートや楽器、そのメロディや動き、音などを把握すること」です。
スコアを読み慣れていない方にとっては、特にこういった現代曲スコアはページを開けばゴチャゴチャ真っ黒で敬遠されがちですが、図形的に見ればたいしたことありません。例えば自分と同じ楽譜の書き方をしている他の楽器を縦に見つければ、そのパートが同じタイミングで同じことをしているとわかるわけです。
あと例えば、トライアングルが鳴ったらこの箇所を演奏するのだ、とスコアであらかじめ理解しておけば、合奏中にも自信を持って演奏できます。そんなスコアの使い方で最初は十分ですから、作品の構成や展開をどんどん吸収していってください。
[拍のアタマを視覚的に捉えられるように工夫する]
こういった作品は、音価(4分音符や8分音符など)の長さを具体的に指定します。結果的に1小節内に含まれる音符や休符の数も多くなって、それぞれの拍のアタマがよくわからなくなりやすいのです。
そこで、拍の頭がどこかを書き込んでみましょう(こういう書き込みはして良いのです)。
この楽譜はかなり昔の課題曲ですが、このような感じに拍の部分を書き込んでみると、演奏ミスは少なくなりますね。ただし、書き込む際、五線を貫いてしまう長い線や、スラッシュのようにナナメ線だと小節線と混同したり、拍アタマが余計にわかりづらくなるので、書き方にも注意が必要です。必要ではない箇所(読むのが難しくない箇所)にこの書き込みは不要です。あくまでも補助として書くだけですよ。
[拍と音価とリズム]
この作品の特徴のひとつは、拍の中に収まる音符の数です。例えばトランペットは冒頭2小節目で1st,3rdは1拍が16分音符4つずつ。しかし2ndは1拍が3連符になっています。パートによって担当するリズム、1拍の中に収まる音符の数が異なり、その微妙なリズムのズレが理路整然としたゴチャゴチャ感になり、聴く人に複雑さを与えます。
隣のパートとキッチリズレる。普通の作品の場合、みんなで同じリズムにすり合わせていくことがアンサンブルの基本ですから、同じテンポ内でそれぞれが独立した異なるリズムを演奏するのは難しく感じるかもしれません。しかし、奏者ひとりひとりが自分の中に確固たるテンポを持ち、みんなで共有し合えばこうした場面はそれほど大変ではありません。
どうしても上手くいかない!他の人の演奏につられてリズムが変になっちゃう!という方は、強い意志から生まれた確固たるテンポが自分の中に宿っているか確認してください。自発的にテンポを生み出す習慣がなく他の奏者や指揮者にテンポを依存する習慣があるとこの作品は非常に難しくなると思います。
「自発的にテンポを生み出す力」が必要なのでメトロノームで練習してもダメです。自分の心や頭の中に上質なメトロノームを育て、演奏中使うことが大切です。
[比で表す連符の解釈]
これを初めて見た方も多いかもしれません。こう解釈します。
この場合の考え方は、カッコで括られた音価(16分音符)を基準として、
1.(16分音符が)3つ入る範囲に
2.(16分音符を)4つ入れる
ということです。この場合は12/16拍子なので、16分音符3つを1グループ(1拍)とした4拍子で1小節が構成されています。
したがって1拍が「4連符」になっている、ということになります。
一瞬びっくりしますが、単にカッコで括って「4」と書くよりも誤解をまねかない丁寧な表記です。
今後どこかでまた出会うかもしれないので、覚えておいて損はなでしょう。
[イメージをする、ということ]
課題曲Ⅱ「マーチ『エイプリル・リーフ』」で詳しく書きましたが、演奏者の使命のひとつとして、作曲者が作品に込めたイメージ、世界観を聴く人に伝えることが挙げられます。しかしこれは、作曲者のイメージを寸分違わず表現するような窮屈なものではなく、奏者の自由なイメージをそこに加えて演奏するわけですから、この作品の場合「ビスマス鉱石」に対する印象を音楽にした、とありますが、どんなビスマス鉱石のどの部分をどのような場所でどんな角度でどんな風に…そんな細かな分析も、ましてや作曲者に問い合わせることも必要ありません。
「そっかあビスマス鉱石ですかあ」くらいで、一応ググってどんな鉱石か知っておくくらいで十分でしょう。それよりも自分の中に豊かなイメージを発展させて演奏するほうがよほど大切で意味があります。
仮に、作曲者に「この場面のこの音は、どのビスマス鉱石のどんな部分のことですか?と質問すると(多分する人多いんだろうなあ…)、作曲者自身が困ると思います。「印象なので、具体的にはちょっと…」みたいな展開が想像できます。これからコンクールが終わるまで何度も訪れると思いますので頑張ってください(直接は存じませんが、フェイスブックで「友達かも」によく出てきます)。
今回の話をもっと具体的に知りたい!実際の演奏がどうか聴いてもらいたい!具体的に上達したい!
という方はぜひレッスンにお越しください。
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各週火曜日更新のブログ「ラッパの吹き方:Re」と、交互に掲載しております「技術本(テクニックぼん)」もぜひご覧ください。
それでは!吹奏楽コンクール課題曲トランペットパート解説2019もこれで全曲解説掲載完了です!コンクールで演奏される方はもちろんですし、そうした方でも合奏や楽譜を読む、作品を解釈する、といった重要な基礎がたくさん書かれていますので、ぜひ全曲の解説をご覧ください。
荻原明(おぎわらあきら)