課題曲 Ⅳ 行進曲「道標の先に」/岡田康汰
みなさんこんにちは!
トランペットを吹いたり教えたりしています、荻原明(おぎわらあきら)と申します。このサイトの管理者です。
では早速課題曲Ⅳのお話です。
[6/8拍子]
この課題曲クリニックの記事群で言い続けていますが、雑誌やネット上など他のいろいろなところでやっている場面ごとの細かい演奏に関してはあまり触れていません。かぶるから。それよりも作品の捉え方や考え方、音楽や合奏においてこころがけておきたいこと、大切なことを中心に書いています。ですので、自分の演奏する課題曲の解説だけでなく、ぜひ他の作品解説にも目を通してみてください。きっと役に立つはずですので。
そしてこの作品、6/8拍子で構成されていますが、その件については課題曲Ⅰ「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲で細かく解説をしております。拍子についてとても大切なことを書きましたので、ぜひ読んでみてください。
[イメージしなさいと言われても…]
ところであなたはこの作品、どんな演奏をしたいですか?また、作品に対してどのようなイメージを持ちましたか?
こんな話題、よく出ますよね。僕も中学生のときから「どんな雰囲気?」「色に例えると?」「ストーリーを考える」などイメージについて言われたことがたくさんあります。でもイメージしろと言われてもなんだか定まらず、どうしたいか聞かれても困るなあ…という方も多いかもしれません。
なぜそうなってしまうのでしょうか。
作曲者は生み出した作品を楽譜という形で残すことが手段として最も多いです。そして奏者はその楽譜を見て作品を再現するわけですが、書いてあることを正確に演奏しようと、情報の書き起こしをしてもそれだけでは「楽譜に書いてある情報を音にした」だけであり、作曲者のイメージした作品にはたどり着きません。楽譜という存在は作曲者が作品に込めたすべての情報を書き込むことができないのです。したがって演奏者は楽譜に書かれている情報を元に「作曲者がどんな完成図を理想としているのか、どんな思いや考えがあって作品を作ったのか」を導き出すことが使命のひとつなのです。
また、演奏者は作曲者の完成図を再現するだけの単なる伝達役ではありません。自分だったらこう演奏する、こんな完成図にしたい、という強い気持ちを作品へ注入し、聴く人へ届ける。これも大切な使命です。
そこで話が戻ります。「どんな完成図にしたい?」と聞かれてもイメージが湧かないのはなぜか。それは、伝える対象に気持ちを向けていないからです。
では料理の話に例えてみましょう。お腹が空いたから自分が食べる分だけ料理するときと、誰かのために手料理を振る舞うときでは気持ちの込め方が全く違うはずです。もちろん料理研究をするくらいこだわりがあるなら別かもしれませんが、少なくとも僕は自分が食べるぶんだけ作るのはとても面倒なのでコンビニで済ましてしまったり、卵かけご飯にしたりと超テキトーです(料理は好きです)。一方、2人分作るときはモチベーションが全然違います。何かを作り出すとき、相手に喜んでもらおうという思いからでしょうか、気持ちが自分以外に向けられるその力はとても強くそして大切で、取り組む姿勢も結果も、その後の成長も全然違うのです。
音楽も聴く人がいて初めて成立します。演奏者は自分の中に気持ちを向けるのではなく、外に向けて発信することが使命で、練習の段階からいつも聴いてくれる人に伝える(伝わる)演奏をする意識を持つように心がけましょう。
ですから、どんな演奏をしたいですか?と聞かれたときに「ミスしない」とか「怒られない」といった自分に向けられたこと、自分を守ることではなくて「演奏を聴いて笑顔になってほしい!」とか「トランペットってかっこいい!と思ってもらいたい!」など、外に向けることで自分がなぜこの作品を演奏するのか目的意識がより明確になりますし、モチベーションも上がります。
[奏者と指揮者の関係]
吹奏楽の場合は大勢でひとつの作品を作り上げるために、まとめ役が必要となります。その役職が指揮者です。
ところでみなさんの中で指揮者を人間メトロノームだと思っている人はいませんか?指揮者は当然テンポを刻むメトロノームではありません(テンポは奏者全員の自己責任で生み出すものです)。では何をしている人か。指揮者とは「ディレクター」「監督」「演出家」です。
大勢でひとつの作品を作り上げる際、奏者がそれぞれ好き勝手に解釈して演奏してしまったら、「ここはたっぷりリタルダンドを付けて演奏するぞ!」「いいや、ここはあっさりとin tempoだ!」と主張していたら全然まとまりませんね。そこで指揮者が必要になります。「指揮者としてはこの場面、こうやって演奏したいのでみなさん協力してね」と。指揮者というのは、「今回のステージで演奏するこの作品をこう演奏します」という方向性、完成形を決定する存在なのです。映画や演劇で言えば監督や演出家がそれにあたります。もし俳優さんが好き勝手に自分の役を作ってしまったら世界観が破綻してしまうのと同じように、音楽でも好き勝手に演奏することは作品を崩壊させてしまう恐れがあるのです。
だからといって指揮者が絶対権力者になって、もう完璧に絶対的に音楽を作り上げることは…ほとんどの場合ありません。わざと隙を作って各奏者が個性を発揮できるようにしてくれています。そうすることにより、その時そのメンバーで作り上げた作品が完成するわけです。
しかし部活動、中でも吹奏楽コンクールに向けては指揮者が(結果的に)絶対権力者になってしまうパターンが多いような気がします。なぜか。
「奏者が何も主張してこないから」
です。みんなが楽譜に書いてある音とリズム情報をただ再現するだけの空き箱のような状態で合奏に参加してしまうと、指揮者は奏者の空き箱を埋めるために沢山の情報や指示を出し続けなければなりません。本来であれば(理想てきなことを言えば)、最初からそれぞれが箱の中にたくさんのイメージや(暫定的な)完成形、作品に対する想いを詰め込んでそれを惜しげも無く合奏で披露するところからスタートするわけで、指揮者は「うん、いいね、それ採用!」とか「そこはちょっと指揮者とイメージと違うので変更してもらえる?」とか、場合によっては沢山の想いが重なり合って新しいものが生まれることもあったりと、大変賑やかなものであるべきなのです。
これも演劇や映画に置き換えればわかりやすいと思います。
俳優さんはセリフの言葉だけを覚えている状態でリハーサルに参加し、「監督、僕はこのセリフをどんなテンポで言えばいいんですか?どんな抑揚をつければいいですか?」「監督、私は右足から歩き出したほうがいいのでしょうか。そのとき左手はどう動かしたらいいですか?」「監督、まばたきの回数を指示してください」「監督、息していいですか?」「監督、監督、監督」。
思い当たるフシ、ありませんか?
表現には正解や不正解というものはありません。聴く人が好きだ嫌いだというのはあります。しかし、聴く人全員に同じ高評価をもらうことは不可能なので、結局自分が一番良いと思うことを最大限発揮するしか方法がないのです。そしてその最大限の発揮は合奏練習のときからすでに始まっているのです。
指揮者に言われるのを待っているのではなく、どんどん主張していける奏者になるようにこころがけてくださいね。
[奏者と指揮者の関係]
解説をここで終わらせようと思ったのですが、曲について何も触れていないことに気づきました。
なので簡単で重要なお話をひとつ。
音楽には「ししゅう音」というのがあります。ししゅうって「刺繍」です。縫うアレ。縫っている状態を真横から見たときに似てるからこの名前が付いたのだと思いますが、簡単に言えばメロディで半音ひっかけている音です。この作品にはとても多い。
冒頭からいきなりししゅう音。
ししゅう音はメロディをうごかすことで場を保たせる力を持っています。これがないとただの音の伸ばしになる可能性が高いのです。ベートーヴェン作曲のピアノ曲「エリーゼのために」の冒頭のうごきもししゅう音ですが、あれがなかったらただのロングトーンになって何の面白味もなくなってしまうわけです。
ではどんな意識をもったほうが良いかと言うと、ししゅう音は「そのとき鳴っている和音と関係ない音」なんですね。したがって、きちんと意識的に音を鳴らさないと、ジャマな存在になりかねないわけで、「これも含めてメロディだぞ」としっかりと主張することが大切です。また、半音でひっかけているししゅう音が多いのですが、半音の音程感が広いとすごくかっこわるいので少し狭い音程で演奏するくらいのイメージがあってもいいかな、と思います。
何にせよ、この作品のどれがししゅう音なのかを見つけてみてください。
今回の話をもっと具体的に知りたい!この作品の演奏を聴いてもらいたい!具体的に上達したい!
という方はぜひレッスンにお越しください。
荻原明が講師を務める東京都文京区にありますプレスト音楽教室では、通常の定期レッスンのほかにも「吹奏楽クラス」というレッスン料のみの単発レッスンを受講できます。
また、不定期で開催している「特別レッスン」というものがございます。こちらはどなたでも、どのような内容でも単発でレッスンを受けられるスタイルで、これまでにも大変多くの方にいらしていただいております。次回はゴールデンウィークの5月2日、3日、5日のそれぞれ10:00-21:00で開催します。ぜひこちらもご検討ください。詳しくはバナーからプレスト音楽教室のサイトをご覧ください。ただいまお申し込み受付中で、2日は残りの枠がかなり少なくなりました。
また、部活などに出張レッスンも可能です。
すべてのレッスンに関してはこのサイト内にございます「Lesson」ページに詳細がありますので、ぜひご参考になさってください。
また、安定した演奏や、トランペットの知識を深める荻原明の書籍も好評発売中です。こちらに関してもこのオフィシャルサイト内「執筆活動/出版物」ページに掲載しており、購入先のリンクもございます。ぜひご覧ください。
各週火曜日更新のブログ「ラッパの吹き方:Re」と、交互に掲載しております「技術本(テクニックぼん)」もぜひご覧ください。
では、次回は4月26日に課題曲Ⅴ「ビスマス・サイケデリアⅠ/日景貴文」の解説を掲載します。
それでは!
荻原明(おぎわらあきら)