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課題曲 I  「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲/林大地

みなさんこんにちは!

さて今年もこちら「荻原明オフィシャルサイト」にて課題曲解説を掲載してまいります。

課題曲解説やアドバイスの動画などは年々大変に増えてきているので、多くの方が書きそうだなあと推測する内容は書いてもしかたがないと思いますので、少し違う視点から解説していきます。

結果としていつも「トランペットパートの話じゃないか!」と言われる内容になるですが、それも必然。元々そのつもりなので、すいませんがご了承ください。したがって、トランペットの方を中心として、他の楽器の方も指導される方にも参考になると思いますから、ぜひみなさんでご覧になってください。(「トランペットパート解説」って言葉、来年度からはタイトルから削除しようか…)

 

それでは課題曲Ⅰの解説です。

【6/8拍子】

 

音楽には原則的に「拍子」があります。

 

ところで「拍子」とは何でしょうか?

 

多くの場合「1小節に入る音符の数」などと答えます。もちろんそれも正解。楽譜を読む際、拍子記号はそのように捉えます。

 

ではもうひとつ質問。

 

 

6/8拍子で1小節全てが8分音符の場合と、2/4拍子でそれぞれが3連符の違いとは何でしょうか?

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答えは「基準となる音価の違い」です。音価(おんか)とは4分音符とか16分音符とか全休符といった楽譜上の時間の長さです。

 

6/8拍子の基準は「8分音符」であり、2/4拍子は「4分音符」が基準です。したがって、作品の冒頭にしばしば記されているテンポ指示記号(メトロノーム記号)の音価も、拍子を基準にして書かれていますから、2/4拍子の場合はテンポ記号のところも「4分音符=120」などと書いてあり、指揮者の棒の振り方もこの基準が何であるかで変えています。

演奏者は指揮を振りませんが、指揮者同様に心の中でカウントする基準の音価は拍子から導き出すことが原則です。

 

したがって、上記の譜例の違いは、6/8拍子は「8分音符6つすべてが『拍』としての力を持っている」のに対して2/4拍子の場合は「2つの4分音符が3つに分かれたリズム」という捉え方の違いが生まれるのです。

【複合拍子】

 

6/8拍子には主に2つのカウント方法がありますね。8分音符を6つ全部カウントする場合と、3つずつのグループに分けて2拍子として捉える方法です。このようにカウント方法が2通りある拍子のことを「複合拍子」と呼びます(4/4拍子のようなカウントが1通りしかないものは「単純拍子」と呼びます)。

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この曲は卒業式でよく歌われる「仰げば尊し」です。ゆったりした印象を持つ6拍子の音楽です。

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こちらは「ナポリ民謡による変奏曲」です。8分音符3つを1拍と捉え、1小節を2拍子でカウントするのが基本的です。

 

 

課題曲に話を戻します。この作品、「あんたがたどこさ」は冒頭のテンポ指示(メトロノーム記号)が『付点4分音符=80 ca.」と書いてあるので、8分音符3つ(付点4分音符)を1拍とした2拍子の捉え方をするのが基本であるとわかります。ちなみに数字の後ろに書いてある「ca.」というのは「およそ」という意味のイタリア語で省略しない場合は circa と書き「チルカ」と読みます。

 

なお、メトロノーム記号がなく「Moderato」などと楽語だけの場合は音符同士の繋がり方(連桁)などからケースバイケースで考えます。

 

 

よく「6/8拍子は苦手」という声を聞きます。それは楽譜が読みにくいからという理由もあるかもしれませんが、きっと「6/8らしい演奏が苦手」ようするに「らしい演奏」ができず、苦手意識を持ってしまうのだと思います。

その理由は、6/8拍子は2拍子で捉えたとしても、元々6拍子であることを尊重する意識が薄れるからだと思います。具体的には「すべての8分音符は均等な力を持っている」のコンセプトで常に演奏すると「6/8らしく」聴こえるのです。

もちろん、拍子には「強拍」というものがありますが、それとは別にすべての8分音符を尊重してください。

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黄色く塗ったところがどうしても弱くなってしまいがちです。拍のアタマと同列に「聴こえる」演奏を心がけます。大切なのは「同列に演奏している自覚」ではなくて、あくまでも聴いている人が同列な音の強さに聴こえるか、です。

​そうした拍子の基本をおさえるだけで(それが団体全員が同じ意識で演奏できることで)作品の完成度はぐっと上がります。

 

 

【展開の早い作品】

課題曲は短いです。この限られた時間の中で様々なシーンを用意したら、それぞれのシーンにかける時間が短くなるのは当然ですが、それにしてもこの作品は特に場面展開が早いですね。

 

その展開の早さが「面白さ」になるか「慌ただしさ」になるかは奏者次第で、慌ただしくない演奏にするために心がけたい大切なことのひとつが「作品全体の展開をきちんと理解して演奏しているか」という点です。

 

 

僕はあまり詳しくないのですが、ついさっき会話の中で東京ディズニーランドの話題があがったので、例えとして使ってみます。ディズニーランドのアトラクション、ジャングルクルーズ。あの船に乗って案内してくれているスタッフの方(え?キャストって言う?まあいいじゃないですか)、すごい上手ですよね。これから起こる数々の展開を自分も知らず初めて起きたかのうように振る舞うあの演技。当然そんなことはないわけですが、乗っている人たちは、ついその演技に乗せられて一緒にワクワクドキドキ楽しむわけです。

 

あれです、あれ。演奏者に必要な要素は。

 

我々演奏者も音楽を聴く人へ届けるとき、一緒になってその時間を、その空間を楽しむ存在でありたいのです。そのためにはまず、演奏者がすべての展開をあらかじめ理解していることが絶対に必要です。そして、これから起こるたくさんのことでどんな気持ちになってもらいたいか、それを強く発信するのです。新鮮さを欠くことなく。

 

コンクールでは何ヶ月も同じ曲を演奏し続けたことによる演奏者の「新鮮な感覚」が希薄になりやすく、それが魅力の欠如になる可能性があります。惰性的な演奏は聴く人たちにワクワクを感じてもらいにくいのです。演奏者としてはもう何千回も吹いたかもしれませんが、あなたたちの演奏を、あなたたちが演奏するその作品を聴くのはほとんどの人がいつも初めてです。そういった感覚を忘れないように心がけてください。

 

ジャングルクルーズのキャストが「もう何度目だよ、飽きたなあ」とか思ったり表情に出したり、そんなトーンで喋っていたら、初めてそのアトラクションに乗ったお客さんも楽しいはずがありませんね。

 

演奏者はそれぞれが作品のガイドであり、演出家なのです。その作品を聴くお客さんの立場になって、いつでも新鮮なワクワクの演奏を心がけてください。

 

 

 

アタマ拍が休符の時の演奏

『練習番号D』の2,3rdトランペットパートはミュートをつけてリズム伴奏を担当しています。

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しかもこの場面、同じことをしている楽器が他に誰もいません。したがってとても重要な部分ですが、だからと言ってハーモニーをキレイに演奏するとか、リズムがずれないようにするとか、そういった狭い視野で考えずに「音楽の流れを決められる役」である、と意識しましょう。

 

こういったリズムのとき、しばしば音楽の流れが重たくなります。それはなぜか。

 

「最初の休符を意識しすぎている」

 

からです。休符を単に「音を出さない時間」と捉えると、必要以上に音楽の流れをせき止めてしまうので、メロディを耳で捉え、自分の心の中でそれを歌い、他の楽器の人たちと一緒に音楽の流れる推進力などを感じた上で、一緒に作品を生み出す存在として自分のパートを全うしてください。

 

 

一方、『練習番号 I 』のトランペット全員ユニゾンの場面、ここも1拍目のアタマが休符ですが、このようなタイプは「1拍目のウラから音を出す」のではなく「休符も含めてメロディである」と捉えてください。

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演奏者はつい音符に視線を合わせ、休符を流す。そんな演奏をしがちですが、休符も当然音楽ですし、メロディの一部でもあります。したがってこのような箇所は「拍のアタマから音楽はすでに始まっている」と感じてみましょう。そうすれば「休符をどう演奏しよう」「休符がどんな存在であるとかっこいいか」など休符に対しても音楽的意識を向けられるようになり、説得力が増します。

 

ベルトーンの練習方法

 

多分ですが、どこの解説も全部このベルトーン攻略法を書いているでしょうから、僕は軽めに書いておきます。

 

 

練習番号Gの5小節目(91小節目)は非常にテンポの早いベルトーンです。

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ベルトーンは見ての通り順番に音を出して鐘が鳴っているかのように響かせるオーケストレーション技法ですが、ベルトーンを勘違いして演奏している方がとっても多いです。まあ楽譜にここまで書かれてしまえば勘違いという問題でもなくなってしまうのかもしれませんが、

 

「音を抜きすぎる」

 

ベルトーンって、音を出す瞬間ばかりに意識を向けてしまうのですが、その後ハーモニーとなるところまでがベルトーンです。しかし、音を抜きすぎることでハーモニーとして成立せず、存在感のないまま終わってしまうことが多いのです。したがってベルトーンは音を抜くのではなく「音が足されていく」という意識と、その結末をあらかじめ意識して、自分以外の音を耳で確実に捉えるように心がけましょう。

 

 

また、この場面のように非常に速いテンポで重なる場合、先ほどの「拍アタマが休符の場合」と同じように休符を感じすぎてしまえば確実に出遅れます。そうならないためには、このような3ステップの練習方法も効果的かと思います。

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1.全員で同じメロディを演奏

2.自分の担当するパートの休符に音符を追加

3.楽譜通りに演奏

 

 

ということで、いかがでしょうか課題曲解説。今回のお話で作品の大枠は完成できると思います。

これだけでなく、ぜひ自由に素晴らしい完成イメージを持って演奏してください。

 

 

僕の課題曲解説はこのような形でお送りしますので、他の作品の解説にも数多くの合奏や演奏、練習におけるヒントがたくさん手に入ります。ご自身が演奏する作品だけでなく、課題曲を演奏しない方もぜひ今後公開します解説を全曲ご覧くださいませ。

 

 

 

 

 

もっと具体的に知りたい!実際の演奏がどうか聴いてもらいたい!具体的に上達したい!という方はぜひレッスンにお越しください。

荻原明が講師を務める東京都文京区にありますプレスト音楽教室では、通常の定期レッスンのほかにも「吹奏楽クラス」というレッスン料のみの単発レッスンを受講できます。

 

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また、部活などへの出張レッスンも可能です。

 

すべてのレッスンに関してはこのサイト内にございます「Lesson」ページに詳細がありますので、ぜひご参考になさってください。


また、安定した演奏や、トランペットの知識を深める荻原明の書籍も好評発売中です。こちらに関してもこのオフィシャルサイト内「執筆活動/出版物」ページに掲載しており、購入先のリンクもございます。ぜひご覧ください。

 

各週火曜日更新のブログ「ラッパの吹き方:Re」と、交互に掲載しております「技術本(テクニックぼん)」もぜひご覧ください。

 

では、次回は3月15日に課題曲2「マーチ『エイプリル・リーフ』/近藤悠介」の解説を掲載します。

それでは!

 

 

 

 

 

荻原明(おぎわらあきら)

 

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