課題曲 Ⅳ 吹奏楽のための「エール・マーチ」/宮下秀樹

みなさんこんにちは!

トランペットを吹いたり、教えたりしている荻原明(おぎわらあきら)と申します。このサイトの管理者です。

 

「荻原明オフィシャルサイト」にて今年も課題曲トランペットパート解説を開催しております。

解説を始める前にひとつ大切なことをお伝えしますと、この記事は課題曲の解説というよりも、課題曲のトランペットパートに出てくるいくつかの部分をピックアップして、その考え方や解決方法をお伝えする内容がほとんどである、ということです(前回に引き続き今回も作品についてはほとんど触れておりませんのであしからず)。よって、作品を作り上げるための全体像…指揮者が作り上げていく方向性や作品そのものの特徴などについてはあまり言及しません。まあ、そういったことは雑誌で指揮者や作曲家の方が詳しくお話されていたり、(信憑性についてはわかりませんし責任は持てませんが)インターネットでも様々な場所で目に入ると思うのでそちらをご覧ください。

 

では課題曲Ⅳ「吹奏楽のための「エール・マーチ」」の解説です。

 

 

作品について

課題曲にはマーチがたくさんありますが、そのほとんどが4/4拍子でした。この作品は珍しく2/4拍子、さてこの違いはどこに現れるべきなのでしょうか。

 

拍子というものがなぜ存在しているのかを辿ってみると、見えてくるものがあります。

 

隔週火曜日に更新しておりますブログ、「ラッパの吹き方:Re」で過去に「テンポと拍子の関係」について詳しく解説しておりますので、まずはぜひそちらをご覧いただければと思います。

拍子が生まれた理由はお分かりいただけたと思います。そして、「この曲は2拍子の音楽である」と聴く人が感じるためには、小節線を越えるたびに強拍を表現し、2拍の繰り返しであると伝える演奏を心がける必要があります。それによって生まれてくるイメージは、4拍子の音楽よりもさらに「行進」の色を濃く表すことになるはずです。

 

演奏者は拍子や小節を「楽譜を読むためのルール」として捉えてしまいがちですが、その作品の基本的な構造を表しているもの、要するに聴く人が感じる全体像や大枠だと理解したいところです。

 

特徴的な速度記号の表記

この作品で印象深い点は「速度記号の表現」です。

 

楽譜に速度を記す際、一般的に速度標語と呼ばれるLargo、Adagio、Lento、Andante、Moderato、Allegro、Vivace、Prestoなどの文字や、メトロノーム記号(四分音符=120など)を用いることが一般的です。

 

この作品には唯一と言っていい具体的な速度指示として冒頭にメトロノーム記号「四分音符=108ca.」が書かれています。行進曲ですから、大幅は速度変化がないはずですから、このテンポが全体的な基準となることはわかります(大幅な速度変化のある「行進曲」というタイトルの作品があるので厄介ではありますが)。

 

しかし、メトロノーム記号と一緒に書かれている速度標語は「Energico」。これはどういった意味なのでしょうか。さらにこの先に現れる速度を示唆している文字についてもそれぞれ調べてみましょう。

 

 

[補足1]

メトロノーム記号に付いている「ca.」は「チルカ(circa)」と読み、「およそ、約」の意味です。

 

[補足2]

楽譜にはおよそのルールがあり、五線の上部にかかれる文字や記号は速度に関するもの、五線の下部にかかれるのは、曲想表現(cantabile、marcatoなど)、ダイナミクスなどです(声楽の場合は歌詞がある関係上、ダイナミクスが上部に来ます)。そして、太文字で真っ直ぐな書体(斜め(イタリック)ではないもの)は、「その箇所からの速度を司る速度標語」です。

 

詳しくは「ラッパの吹き方:Re/速度に関する記号」記事をご覧ください。

 

 

 

それぞれの記号について

では、この作品に速度記号として書かれているそれぞれの意味を調べてみましょう。

 

Energico(エネルジコ):力強い、精力的な、エネルギッシュな

Elegante(エレガンテ):優美な、優雅な

con moto ma non troppo (コン・モート・マ・ノン・トロッポ):動きをつけて(速めて)しかし甚だしくなく

Risoluto(リゾルート):きっぱりと、断固として、決然と

Maestoso(マエストーソ):威厳に満ちた、荘厳な、堂々たる

Brillante(ブリッランテ):輝かしい、華やかな

 

※参考:遠藤三郎編「独仏伊英による音楽用語辞典改訂版(シンコー・ミュージック)」

 

この中で、con motoはテンポ指示としてよく見かけます。Maestosoも速度に影響を与える力を持った記号です。しかし、それ以外の楽語に関しては、そもそも速度標語ではなく曲想記号なので、速度指示として持ちいられたのを私は見たことがないと思います。この場合、どのように捉えればよいでしょうか。大切なのは、イマジネーションです。

テンポは作品が最初から持っているもの

私はレッスンで「テンポはその作品が最初から持っているものです」と、よくお話します。

 

子どもや初心者への初歩的な音楽教育では、よく先生が演奏開始の合図として「さん、はい」と言ったり手を叩いたり、メトロノームに合わせる方法でテンポを提示することが多く、その印象や影響が強いからか「テンポは与えられるもの」と認識してしまっている人が多い印象があります。

 

しかし、私の解釈は違います。

 

例えば同じ「歩く」であっても、パワーがみなぎっている時と、疲れ果てて今にも倒れそうな時では、歩く速度もその様子も大変に異なります。

 

音楽も同様で、その作品、場面がどのような演奏だと最も活きるか(ベストだと思うか)を感じ取ると、おのずとテンポもそして音符ひとつひとつのキャラクターの音色や音の出し方も変わってきます。

 

したがって、テンポは誰かから「これで演奏しなさい、さんはい!」と指示されるものではなく、「こう演奏したい(だってそれがベストだから)」と自発的に表現することで、テンポも含めた自身の演奏が生まれてくるわけです。

楽譜からの情報を得る

ただ、好き勝手にやれば良いわけではなく、作曲者のイメージを尊重した上での自由です。それを探るために、楽譜のデータが有効になるわけです。

 

例えばこの作品、練習番号HのTrioは「Elegante」です。優雅さ、優美さというキーワードから、あなたはどんな演奏がベストだと思いますか?他の部分に関しても同じようにイメージしてみましょう。

結果的にアーティキュレーションも変化する

先ほど「パワーがみなぎっている時」「疲れ果てて今にも倒れそうな時」と書きましたが、こうしたイメージから生まれるのはテンポだけではありませんね。「足取りが軽い(重い)」と表現されるように、その動きや表情もすべて変わります。

これを演奏で言うならば、アーティキュレーションやニュアンスの変化、と言えるでしょう。アーティキュレーションというのは、スラーの付け方やスタッカート、アクセント、テヌートなどによって音符により具体的な性格を持たせる記号と方法で、例えば、はっきりとしたタンギングで音の密度が高いスタッカートが連続すれば、それは芯が強く、軽快な印象を伝えられると思います。

テンポは自分から主張するもの

先ほど書いたように、テンポを与えられることに慣れてしまうと、合奏でも指揮者の棒の動きでテンポを決める(指揮者が動くまでテンポのことを考えていない)、演奏中も指揮者の棒に合わせようとばかり考えてしまいがちになりますが、それは間違った解釈です。

 

合奏では、事前にそれぞれが「ベストだ」とイメージして作り上げてきた演奏を各自が持ち寄ることで演奏をします。そしてその時、意地になって自分の主張を貫くのではなく、それぞれの「ベスト」な表現をそれぞれの寛容な心で「それもアリだね!いいねそれ!」と寄り添うことで生まれた演奏を「アンサンブル」と呼びます。音楽が「生き物」と例えられるのはこのためです。同じ演奏は2度できないのです。

指揮者の仕事

ですから、指揮者がなくてもある程度までの完成はできるのです。では指揮者って必要ありませんか?そんなことありません。指揮者とは一体何をする人なのでしょうか。

 

部活動やアマチュアの団体では、指揮者=指導者の役割も持っているのでその役割が複雑ではありますが、本来は「作品の方向性を決定する人」です。「現場監督」「演出家」のような存在です。

 

奏者それぞれの主張から生まれた作品を「今回はこんな感じで行きます!」と決定権を持っているのです。ですから、作品のイメージが指揮者のイメージと違っていた場合、指揮者のイメージを受け入れることになります(それは否定されたわけではなくて、どの方向性を選択したかということ)。ただ、指揮者も結構奏者の提案を受け入れてくださることが多くて、100%全部指揮者色に染めようとする人はほとんどいないと思います。ですから、楽器の奏者同士でアンサンブルしているのと同様、指揮者ともアンサンブルをして、刺激し合っているわけです(本来そうあるべきです)。

 

というのも、アマチュアの世界では度々指揮者がすべての決定権を持っている構図になっているのを度々みかけたことがあります。演奏者が自分の主張をせず、指揮者に「さあ何か指示を出してください」「私を上手にしてください」「演奏指示をください」と受け身になっていることも原因のひとつですが、そうなってしまったのはやはり指導する側の問題が大きいと思います。それぞれの立場や役割を指揮者も奏者も全員で一緒に学んでほしいな、と思います。指揮者の方が変わると途端に演奏レベルが落ちてしまう団体、ありますよね…。よくよく考えてみるとちょっと不思議な感じしませんか?

常に聴く人へ向けていることを忘れないように

作曲者は楽譜を書きます。それはなぜですか?

 

自分の作品をたくさんの人に届けたいからですよね。

 

それは奏者に対してだけですか?違いますね。

 

その作品を「聴いてくださる方」へ届けたいのです。

 

楽譜はそれを実現する目的のために演奏者へ伝えられるようにデータ化したものです。

 

奏者の中には楽譜を、まるで法律でも書いてあるかのように厳格な指示だと捉えている方が結構多いです。楽譜のルールを守ることに必死になり、書かれていることが絶対だと感じてしまう。しかし、そうではないと思うのです。楽譜にはある程度の書き方のルールがありますが、それには限界があります。そもそも作曲者(人間)のイマジネーションはデータですべてを書き込めるほどチープなわけもありません。

ということは奏者がすべきことは「データとして記録された楽譜を元に、そこに直接書かれていない作曲者の作品に対するイメージも手に入れる」ことです。

 

そして、「自分だったらこんな演奏がベストだ」という主張も明確にし、「その作品を聴いてくださる方へ作曲者の想いと自分の想いを融合させて届ける」。これが基本的な演奏の構図です。

 

 

ですから、指揮者や講師の先生に怒られないために楽譜のデータを機械的に再現することなど、まったくもって音楽ではありません。もっと意識を広範囲に広げて、音楽の持つ自由を常に楽しんでください。

ということで、課題曲Ⅳに関してはここまでとします。全然曲について触れませんでしたね。でも作品にとりかかるにあたって最も重要なひとつを詳しく解説しました。このサイトに掲載している課題曲解説は全曲このような形式で書かれています。したがって、自分の演奏しない作品についてもぜひご覧ください。たくさんのヒントが散りばめられているはずです。

もっと具体的に知りたい!上達したい!という方はぜひレッスンにお越しください。

 

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隔週火曜日更新のブログ「ラッパの吹き方:Re」と、交互に掲載しております「技術本(テクニックぼん)」もぜひご覧ください。

 

 

 

 

では、次回は最終回、2020年4月24日(金)に課題曲Ⅴ「吹奏楽のための「幻想曲」-アルノルト・シェーンベルク讃」の解説を掲載します。

 

次回もぜひご覧ください!

 

 

 

 

 

荻原明(おぎわらあきら)

© 2017 AKIRA Ogiwara

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