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課題曲 Ⅲ 行進曲「春」/福島弘和

みなさんこんにちは!

トランペットを吹いたり教えたりしています、荻原明(おぎわらあきら)と申します。このサイトの管理者です。

 

課題曲のスコアと音源が届いて全曲を流して聴いた時、圧倒的に素晴らしいと感じたのがこの「行進曲『春』」でした。

吹奏楽の原点的かつ安定したサウンドが奏でられるオーケストレーション。僕の世代だからでしょうか、A.リード作品集CDの1曲目に入っていそうな世界観、これこそ吹奏楽!という安心感すら覚えました。吹奏楽のこういった響き、久しぶり。

 

最近の吹奏楽曲ももちろん素敵な作品が数多くありますが、もはやクラシカルと呼んで良いのかもしれないリードやバーンズ、ネリベルなどの楽曲を恒久的にもっと演奏して欲しいな、という気持ちが少なからずあります。吹奏楽はポピュラー音楽ほどではありませんが流行りがあるので、どんどん新しい曲、新しい作風やその傾向が変化していきます。特に日本では吹奏楽コンクールの「いわゆる強豪校(←笑)」が演奏すると、その後数年間に渡って全国規模で流行する、というなんとも単純かつ浅はかな流れがあります。楽曲の素晴らしさよりも、「この曲なら勝てる(←笑)」の発想なのでしょう。楽曲の持つ本質的な美しさではない感じがして残念です。

 

話が逸れて申し訳ないのですが、洋服の流行と吹奏楽の流行は同じ20~30年前後の周期を感じます。ここ10年間くらい、吹奏楽コンサートで演奏されるプログラムを見ていると、流行の作品以外に僕が中高生の頃に演奏していた作品を取り上げている団体が多いのに気づきます。宝島とかね。

多分これは、中高生のときに演奏した作品を、2,30年経って大人になった今、学校の顧問になったり指導者になったり楽団の決定権を持つ存在になるなどして、過去の作品をもう一度選んだのではないかと感じています。

それだけにとどまらず「良いものは良い」と、クラシカル的位置付けのある吹奏楽曲、もっと取り上げて欲しいな、と個人的には思います。

 

 

話を戻します。課題曲は毎年新しい作品が発表され、過去の作品のほとんどは一年足らずで存在すら忘れられ去られることが多いのですが、この作品に関してはこの先もずっと演奏され続けて欲しいと思います。

[休符の音楽]

吹奏楽曲は音の数が多く慌ただしいものが多い印象を持ちます。特に縦(一緒に演奏するすべての楽器とパート)に並ぶ音符、重なり合う音がとても多い。それはオーケストラなどに用いられる弦楽器の大勢がユニゾンで演奏した響きの重厚さを吹奏楽は表現できないからこその特徴でしょう。

 

そして、横(ひとつひとつのパートが担当する演奏箇所)に並ぶ音符も多い。息継ぎを忘れてしまうほどの圧倒的な音の数と流れ。水の流れが強い森の沢のようです。そのせいか、オーケストラ作品に比べると音源を何曲も聴き続けるのに体力がい必要な気がします。

 

この作品に良い意味での異質感を覚えたのは、横も縦も重なり合う音の数が少ないからだと思います。特に横。「行進曲『春』」の最大の特徴は「休符」にあると思います

 

 

[休符の持つ力]

演奏する人の多くは「音符」に意識を持っていかれます。もちろんそれは当然のこと。音符は「出力」をするものですから、自分の力で発さなければなりません。

 

一方、休符は音を出さない時間ですから、出力の意識や音を鳴らすために体を使う必要がないので、どうしても気楽に、無頓着に流してしまうことがあります。

 

しかしこれらすべては演奏者としての目線です。では聴く側の人たちはどうでしょうか。

 

聴く側は音符の羅列だけを求めているのではなく、休符もすべて含めた「音楽」を求めています。メロディにも少しの隙間(休符)があったり、フレーズがおわるとき、少しだけゆったりとした空間が現れたり、心にゆとりを感じる呼吸や静寂など、音を発行為だけで覆われていないのが音楽です。

 

そうしたものは演奏側が作品の全てを担うのではなく、聴く人(見る人)自身に問いかけたり、感じてもらったり、考えてもらう、そんな時間(空間)でもあると思うのです。最初から最後までずーっと「俺の音楽を聴け!」というのはエゴですし、窮屈ですよね。

 

 

また、休符の持つ力はそれだけではありません。例えばジャンプをしようとすれば踏み込みが必要になります。スポーツで使用するバットやラケットを振るためにも一旦振りかぶる必要があるように、発するためのパワーを生み出す前には、パワーを溜める時間が必要があり、音楽で言えば休符がそれに当たります。

 

 

[シンコペーション]

その最も顕著なものが「シンコペーション」です。シンコペーションとは、本来強拍であった場所(主に1拍目)が何らかのリズム変化によって力を注げなくなった状態です。この作品で言えば11小節目がそれに当たります。

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本来であればスムーズに1拍目を演奏したいのに、休符によってそれを制御されてしまいました。その結果、次にある1拍目ウラの4分音符に音符のパワーが移動するのです。

この大変シンプルな構造のシンコペーションは今の時代、ジャズもロックもポップスの存在から当たり前になっていますが、やはりその原点であるこうした演奏時には大切に、そして意識的に表現して欲しいところです。

 

 

このように休符は音を出さないことで様々な印象や力を生み出してくれているとても大切な存在です。音を出すことだけでなく休符を楽しみ、休符を含めた音楽を心がけてください。

 

 

 

[「合わせる」の勘違いに注意]

この作品はトランペットパートだけが独立して何やら目立つことをしているシーンよりも、すべての楽器から生まれてくる吹奏楽特有のユニゾンサウンドが印象深く、そして美しい作品だと感じます。

 

そんなオーケストレーションなのできっと作品を作り上げる段階になると「音を合わせよう」という言葉が飛び交うようになることでしょう。

 

「音を合わせる」

 

みなさんはこの言葉からどのような印象、そして結果を持ちますか?そしてそのために心がけることは何だと思いますか?

 

 

音を合わせることを、よく「ブレンドする」と言う人がいます。この「ブレンド」という言葉が個人的にはどうしてもコーヒーとミルクを混ぜてカフェオレにするイメージを持ってしまうのですが、同じような方、結構多いと思うのです。

もしこれを合奏における音だとするならば、例えばトランペットとクラリネットが混ざり合うことでそれぞれの個性を失い、新しいクラリペットサウンドが誕生する、そんなイメージを持ってしてしまう可能性があるのです。

 

この発想は良くありません。

 

音楽における「合わせる」とか「ブレンドする」というのは、それぞれの楽器の音がしっかりと鳴っている状態の集合体なのです。

トランペットなのにホルンの音を出すことは当然できません。ですからトランペットはどこまでもトランペットの音であり、それを追求していくことが大切です。

 

 

トランペットは非常によく鳴る楽器ですから、トランペットよりも出力の低い木管楽器などとバランスを考える際、演奏している自分の耳に、他の楽器の音が捉えられている状態を基準に持つようにしましょう。そうすることでトランペットばかりが客席に鳴り響く印象の悪い音の届け方になりにくいのです。音量が大きいトランペットだからと言って譲るのではなく、全員がきちんと聴こえるバランス、その結果生まれてくる吹奏楽ならではの、あなたのバンドならではの「ブレンドされた響き」を生み出す工夫をしてみましょう。

 

 

ということで、この作品に関して最も重要なことを書きました。練習番号◯のどこがどうで…というのはきっと他のサイトや雑誌にに沢山沢山書いてあるでしょうからそちらを参考にしてください。

 

 

今回の話をもっと具体的に知りたい!実際の演奏がどうか聴いてもらいたい!具体的に上達したい!

 

 

という方はぜひレッスンにお越しください。

荻原明が講師を務める東京都文京区にありますプレスト音楽教室では、通常の定期レッスンのほかにも「吹奏楽クラス」というレッスン料のみの単発レッスンを受講できます。

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また、不定期で開催している「特別レッスン」というものがございます。こちらはどなたでも、どのような内容でも単発でレッスンを受けられるスタイルで、これまでにも大変多くの方にいらしていただいております。次回はゴールデンウィークの5月2日、3日、5日のそれぞれ10:00-21:00で開催します。ぜひこちらもご検討ください。詳しくはバナーからプレスト音楽教室のサイトをご覧ください。お申し込みは4月2日より開始いたします。

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部活などに出張レッスンも可能です。

 

すべてのレッスンに関してはこのサイト内にございます「Lesson」ページに詳細がありますので、ぜひご参考になさってください。

 

また、安定した演奏や、トランペットの知識を深める荻原明の書籍も好評発売中です。こちらに関してもこのオフィシャルサイト内「執筆活動/出版物」ページに掲載しており、購入先のリンクもございます。ぜひご覧ください。

 

 

各週火曜日更新のブログ「ラッパの吹き方:Re」と、交互に掲載しております「技術本(テクニックぼん)」もぜひご覧ください。

 

 

 

 

では、次回は4月12日に課題曲Ⅳ「行進曲『道標の先に』/岡田康汰」の解説を掲載します。

それでは!

 

 

 

 

 

荻原明(おぎわらあきら)

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