

課題曲Ⅴ エレウシスの祭儀/咲間貴裕
みなさんこんにちは!
トランペットを吹いたり教えたりしているこのサイトの管理者、荻原明(おぎわらあきら)と申します。今回は課題曲Ⅴの解説です。
【作品を聴いて】
最初に聴いて感じたのは、
「あ、今回の聴きやすい」
という印象。
そもそも課題曲Ⅴが覚悟をして聴かなければならなくなったのは、いったいいつからなのでしょうか。
[真っ黒なスコア]
それにしても、こうしたいわゆる「現代曲」は、なぜ音価が細かいのか。
いつもスコアを最初に見て感じることは
「黒い」
ということ。本当に細かい。32分音符が基準になって64分音符と64分休符が羅列した真っ黒な楽譜。
J.S.バッハの「G線上のアリア」とか、パッヘルベルの「カノン」とかの、ゆっくりな音楽をひとフレーズにまとめるために細かな音価を用いることになった、のとはまったくコンセプトが違って、歴代の課題曲Ⅴの作品に対しては、楽譜に書いてある倍の音価を使ったっていいじゃないか、としか思えないのです。
32分音符を16分音符に置き換えたって、出てくる音には変わらないような気がするのです。
ただ、本当にそのような書き換えをしたと仮定して、失われてしまう何かがあるとすればそれは、
「奏者の集中力と緊張感」
ではないかと思います。
演奏する側からしてみると、音価を細かくされたことで起きるのは「読み間違えないように」するという集中力と緊張感。
わざと読みにくく書かれることで、楽譜をしっかりと見なければなりません。
また、これもどういうわけか音価が細かくなればなるほど「テキトー」な感じが許されにくい印象を持ちます。
この解釈が正しいかどうかはわかりません。しかし、こうした楽譜の作品を演奏する上で共通することは、
「豊かな音楽性よりも楽譜から生まれてくる素直な演奏」
になるということ。
例えるなら国語よりも数学といったところでしょうか。
ですから、「課題曲」という点ではこのような作品が取り上げられることは大変評価できます。バンド全体、個々の奏者の理論的に楽譜を読む力とそれをきちんと表現できる力は、審査する上でチェックしやすいですから。
【実際の演奏から楽譜を読み取る/練習番号D(27小節目)以降】

27小節目以降に出てくるこの記号、打楽器や現代音楽ではよく出てきます。しかし、やはり見慣れないこの楽譜、どうしたものかと考えてしまいますね。
作曲者からのコメントが楽譜にも書かれていますが、実際のところいろいろな解釈や演奏方法があると思います。
こういった楽譜に直面したときには、必ず持っていてもらいたいスタンスがあります。
それは、
「楽譜という存在をどのように捉えているのか」
要するに「楽譜があって演奏が生まれる」以前に「音楽があって楽譜が生まれた」という点を忘れないようにしたいのです。
どうしても演奏者は、楽譜を手渡されるところから始まるために、その楽譜が生まれるまでの時間や経緯というものを忘れてしまいがちです。
あなたは、この作品(この場面)を、どのような演奏にしたいですか?
あなたは、作曲者がこの楽譜を、どのようなイメージで書いたと思いますか?
課題曲の場合、作曲者本人が直接バンドやクリニック来てアドバイスをされる機会も多いですし、雑誌などにも掲載されていますね。
それは大変貴重なものですが、できることなら作曲者本人からの情報を手に入れる前にまずは自分自身で、自分のバンド内で作品に対するイメージをできるだけ大きく膨らませておきたいものです。
音楽に対するイメージに間違いもダメなこともありませんから、そのイメージが作曲者の持っているイメージと違っても全然問題ありません。
むしろ多くの作曲者は作品が自分の手を離れ、様々な解釈で成長することに喜びを感じているはずです(僕はそう思っています)。
ですから、楽譜という資料をもとに「自分だったらこう演奏する(だってそれが一番かっこいい/素敵だからetc.)」とイメージを実際の演奏に昇華させるのです。
「自由に演奏していいよ」と言うと「何も思い浮かばない」と言う人も多いです。
その理由は2つあります。ひとつは上記のような解釈に及ばず「楽譜通り演奏しなければならない」と思い込んでいるから。そしてもうひとつは「イメージするための資料が足りないから」です。
後者は経験不足が原因です。
一番直接的なのが、音源を聴く機会が少ない(楽曲を知らない)、演奏会など生の音を聴く経験が少ないということ。他にはイマジネーションを発揮させる材料に出会う経験が少ない点です。例えば演劇や映画、ドラマや絵画、ダンス、スポーツ、小説、落語、書道、ものづくりなど「表現」に触れる機会です。
経験の多さは引き出しの多さです。
これは短期的なものではありませんが、すべての経験は自分の表現の糧となります。ぜひたくさんの「表現」に出会ってください。
とにかく、楽譜に書いてあることだけを演奏しようとしないでほしいのです。楽譜とは、単なる「(ある程度の情報が書かれた)データ」です。そのデータの中に作曲者の思いが全て記されているわけではありません。
そのデータが不足しているところは、「自分のイマジネーション」で補填します。そうすることでひとつの完成形が生まれるのです。
楽譜通りに演奏することだけを求めていっても、音楽としては完成しないのです。
[25小節目のタテを読み取る]
この場面の3rdトランペット、なんだか入るタイミングが難しそうですね。
なんでこんなことになっているのか、それはスコアを見れば一瞬で解決します。

いかがでしょうか。要するに、1stのメロディに合わせて入るためでした。
こういった場合は自分のパート譜だけを見ながらメトロノームをカチカチして一億万回繰り返し練習してもできるようにはなりません。
ポイントは1stのメロディを覚え、演奏できるようにすることです。
そうすれば自然と1stの演奏を聴きながら、それに「合わせる」ことができるようになります。
スコアを見ることはとても大切だと事あるごとに書いておりますが、それは自分の担当するパートが、トランペットパートやバンド全体でどのような役割を持っているのかを把握するために必要なことだからです。
[練習番号G]
この作品は、大きく分けて前半と後半の2部構成になっています。後半は「祭儀の舞踏的な様子」とのことですが、なんだかバーンズの「呪文とトッカータ」に似ていると思ったのは僕だけでしょうか。まあいいや。
さてこの場面、5拍子です。
来ましたね、変拍子。こういうのを見ると途端にアレルギーが出てしまう人も少なくありません。
変拍子の演奏をこなすために取る対策として、よく耳にするのが
・細かくカウントする
・何かの言葉を当てはめる
この2点です。例えばこの作品で言えば、
「12345!」とか「12!123!」とか。
「いけぶくろ!いけぶくろ!」とか。
もうみんな必死。
確かにこの方法でも5カウントすることは可能です。しかし、ひとりで一生懸命練習したのにパート練習や合奏になると全然うまくいかない経験ありませんか?
それは、この練習で失ったとても大切な音楽要素があるからです。それは
フレーズ感や躍動感。
12345!と細かくカウントするこれは「ビート(感)」。楽譜をキリ良く分けたときに浮き上がってくる存在です。これはまるで方眼紙の小さなマス目を数えるようなもの。
ビートは音楽にとって非常に大切です。しかし音楽はこれと同時に大きく躍動(跳躍)する「フレーズ」の存在が必須。
我々は会話をするとき、無意識にフレーズを生み出しています。
「あ、い、う、え、お」などの音(おん)が「単語」になり、それが繋がって文章=フレーズになります。
そこで初めて、自分が相手に何を伝えたいのかが明確になります。ぎこちないロボットの喋りは聞き取るのが大変なのはその理由です。
音楽もこれとまったく同じです。
音符ひとつひとつがどれだけ丁寧で美しくても、それがフレーズとして成立していなければ、聴く人にとっては意味不明(メッセージが届かない=心に響かない=音楽がつまらないもの)になります。
では具体的にどうすればよいか。
捉え方をもっとアバウトにすればいいと思います。
こんな考え方はいかがでしょうか。
「ジャンプ力が変わる」
この作品で言えば、「12,123」と後半が8分音符1つ多いですね。
では後半のジャンプを少し高くすればいいのです。

僕は変拍子のときに最終的にはこんな感じで高いジャンプと低いジャンプがあると考えて演奏しています(その前にはもちろんビートを正確に捉える練習をします)。
ジャンプ力の変化で生まれた「結果的にどんな演奏になるのか」を体感できれば、いちいちビートを細かく数えなくても音楽的に演奏できるようになります。
[ハイノート]
1stは少々ハイノートが出てきますね。
しかも突然当てなければならない場面が多いので、怖いと感じてしまうかもしれません。
緊張や自信のなさを持っていると、それが原因でミスをする可能性もあります。
ハイノートは、いくつかのシンプルな条件がバランスよく整ったときに鳴らせます。
僕はその「条件」を「歯車」と呼んでいます。
きちんと正しい歯車をひとつずつ手に入れて、それらを丁寧に噛み合わせていく。そうすれば自然と結果は伴うのです。
その歯車とはいったい何か。それらを順番に嚙みあわせるためのノウハウは?
実はこういった内容の解説を昨年より別の場所で掲載しております。
「ラッパの吹き方 Ver.2.0」というブログの中で、今後出版予定の「トランペット ハイノート本」の原稿先行公開として隔週火曜日に更新をしています。
現在一番重要なハイノートへの音域変化の方法について解説しているところで、もうすぐ譜例をもとに実際に演奏する「実践編2」に入るところです。
それぞれの記事は有料なのですが、かなりの情報量ですので、安いと思います(1記事200円か100円)。
このハイノート本とは何なのか、詳しくはブログ記事「はじめに」や、その他お知らせ記事をご覧ください。
ということで、課題曲5の解説はここまでです。
今回ですべての作品解説が完了しました!
コンクールで演奏する課題曲の情報だけでなく、ぜひ他の作品の記事も読んでみてください。
様々な場面で活用できるヒントがたくさん掲載されていますよ!
もっと具体的に知りたい!実際の演奏がどうか聴いてもらいたい!具体的に上達したい!という方はぜひレッスンにお越しください。
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各週火曜日更新のブログ「ラッパの吹き方:Re」や、9年間更新し続けて参りました旧「ラッパの吹き方」もぜひご覧ください。
それでは!
荻原明(おぎわらあきら)
