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課題曲Ⅳ  コンサート・マーチ「虹色の未来へ」/郷間幹男

みなさんこんにちは!

トランペットを吹いたり教えたりしているこのサイトの管理者、荻原明(おぎわらあきら)と申します。こちらは課題曲Ⅳの解説です。

【作品を聴いて】

最初に聴いて感じたのは、主旋律以外のメロディ、いわゆる「オブリガード」がたくさん出てくる点です。

 

トランペットに関しては、メロディが出てくるといわゆる主旋律を担当していますが、中音域の楽器、ホルンやサックスなどが多くのオブリガードを演奏しています。

 

 

トランペットを吹いている身としては、主旋律が出てくると張り切りたくなりますよね。「自分がこの作品を作っているんだ!」という気持ちになるというか、主役になっているような気持ち。

 

で、合奏で本当に張り切っちゃう。

他の楽器をみんな追い越して、どんどん吹いてしまう。

 

なんだかとっても達成感。

清々しい疲労感。

 

 

でもそれって、カラオケでマイクボリュームめちゃくちゃ上げて、カラオケの音が全然聴こえないようなもの。歌っている本人はいいかもしれませんが、それを聴く立場になってみると、バランスが悪くて楽しくありません。

 

主旋律はたしかにその作品を象徴している存在ではありますが、打楽器のリズムも低音のベースラインも、ハーモニーも、そしてオブリガードも全部が作品を作り上げている重要な存在なのですから、それらすべてをバランスよく聴く人へ届けるべきです。

 

むしろ主旋律って他のパートに比べると、イヤでも耳に入ってきますから、主張しなくてもいいくらいです。

 

 

 

では、バランス良い演奏をするにはどうすれば良いでしょうか?

 

 

自分のパートを抑えて、他に譲りますか?

いいえ、これは絶対やってはいけません。

 

 

自分を抑えるとか、譲るという消極的な姿勢は、音楽を発展させません。

 

自分の存在をマイナス方向へ進ませるという行為の行き着く先は、そのパートがなくなるということです。楽譜に書かれた全ての音符、全てのパートは必要だから書かれていますから、矛盾していますよね。

 

 

したがって、バランスの良い演奏をするためには、自分の担当しているパートをまずはしっかりと主張することです。しかし、俺様キャラにはならず、共演する自分以外の全ての奏者を讃え、全員でひとつの作品を作り出そうとする積極的な姿勢です。

 

 

具体的には、「合奏の際、他のパートの音が自分の耳で捉えられる状態」をキープすることです。

 

 

この状態は、ほとんどの場合バランスよく客席に届いています。

 

他のパートが何をしているのかあらかじめ知っておくことで、より合奏中に様々なパートを耳で捉えることができます。

したがって、スコアを読む習慣を持つこと、これが非常に大切なのです。

 

スコアを読む、というとなんだかとても難しいことのように感じますが、そうではありません。

 

パッと見ると、同じ動きをしているパート(図形的に同じ形のパート)がリストアップできると思います。

例えばトランペットが主旋律を演奏しているそれを同じリズムでクラリネットが演奏しているとか、すぐにわかると思います。

 

合奏中にその場面が来たら「クラリネットが同じことをしているんだな」という意識でクラリネットとアンサンブルをする(耳で音を捉える)。それだけで演奏の一体感は大きく変わります。

 

このようにスコアは難しく読む必要はありませんから、ぜひたくさん眺めて、様々な特徴を捉えてみてください。

[三連符のモチーフ]

スコアの作品解説に作曲者本人も取り上げている「三連符のモチーフ」は、この作品の中で重要な存在です。

その三連符は場面ごとに少しずつ形を変えていきますが、そのほとんどがトランペットパートが中心になるよう書かれています。

 

それぞれがどのような演奏をすればかっこよくなるかはそれぞれの団体ごとにで考え、作り上げて欲しいと思いますが、それ以前のアドバイスをするならばこういった音の並びは、

 

 

 

低い音が他の音より客席に届きにくい

 

 

という点です。

 

 

人間の耳の捉え方にはいくつかの特徴があります。

 

 

・短い音は、長い音よりも聴こえにくい

・低い音は、高い音より聴こえにくい

・こもった音は、クリアな音より聴こえにくい

・同じ音量で持続する音は徐々に弱くなって聴こえる(衰退する)

 

 

これらは科学的、物理的側面から立証できるかはわかりません。僕個人の実践からの経験則です。

 

 

このモチーフは、それぞれ2つ目の音が低いのが特徴です。したがって三連符の真ん中の音がどうしても埋もれてしまい客席に届きにくいので、意識的にしっかり聴こえるような演奏を心がける必要があります。

 

 

我々奏者は、「自分が全ての音を均一に演奏する」のではなく、「客席で聴く人がすべての音を均一に聴こえるように演奏する」ことを常に意識している必要があります。

[和声を変化させている自覚を持つ/冒頭4小節目:2ndパート]

冒頭のGrandiosoからMarchに入る直前、ほとんどのパートが全音符で演奏している中に、3拍目で音が変化するパートがあります。

2ndトランペットもそのうちのひとつで、作品の流れ(和音)を変えている重要な存在です。

2nd奏者は、自分の演奏によって作品がどのように変化するのかを理解しておきたいのですが、難しく考える必要はありません。

もちろん、理論的にきちんと理解できるのであればそれが理想ですが(この場面に関しては和声理論のsus4とドミナント(Ⅴ)の和音の持つ力について調べてみましょう)、和音がどのような響きからどのような変化をしたのかイマジネーションを発揮することが大切です。

 

 

そしてさらにもう一歩踏み込んでください。

 

 

その変化によって聴く人がどのような印象の変化を持つのか(持たせたいのか)、そこまで意識してください。

 

 

「楽譜に書いてあるからやってますけど何か?」のような、まるで他人事の演奏は絶対にしてはいけません。

 

 

また、2nd奏者と同じうごきをしているパートを知っておくことも大切です。パート数としてはそれほど多くはありません。だからこそ、音楽の重要な要素のひとつである「和音」を変化させているひとりとしての自覚を強く持って演奏しましょう。

 

 

1stと3rdは何も考えずにボケ~っと伸ばしていて良いわけではもちろんありません。常に耳を使って和音の変化を捉え、そして自分の音が減衰しないように推進力を持った演奏を心がけてください。

[スラーの中にある休符/練習番号C]

この楽譜を見てどう思いますか?

「スラーなのに休符?!タンギングするの?しないの?」

 

 

と、困惑した方もいるのではないかと思います。

 

確かにトランペットパートの楽譜にスラーが書いてあれば「タンギングをしないで演奏する」と考えるのが最も一般的です。

 

このように奏法面から考えると矛盾していると思われがちですが、この部分は楽譜に書いてある情報だけでは音楽は成立しないことを教えてくれる良い例です。

 

 

 

そこで、楽譜について少し考えてみましょう。

 

 

 

楽譜とは作曲者が頭の中で思い描いた音楽を記号化して記録した媒体です。作曲者は楽譜を作ることで「ある程度」自身の描いた音楽をそれを見た人へ伝えることができます。

 

この「ある程度」という点がポイントです。

演奏者側は「楽譜には作曲者のイメージした音楽が100%書き記されているわけではない」ことを理解してください。

 

 

楽譜はいわば「妥協」によって書かれたもの。それは作曲者の立場になってみるとわかります。

 

 

例えば「強弱記号」。強弱はf(フォルテ)とp(ピアノ)の2つの記号を用います。

 

もしあなたが作曲者だったとして、「元気一杯のシーン」を書いたとしましょう。そのときあなたはその場面にきっと「f(フォルテ)」と書き込むはずです。

 

では、「泣き叫ぶ悲しみに満ちたシーン」ではいかがでしょうか。「泣き叫ぶ」ことからきっとこれも「f」と書くでしょう。

「壮大な山々の連なる大自然の力強さ」「大爆発のシーン」これらもきっと「f」と書くのではないかと思います。

 

楽譜の中に込められたそれぞれのイメージはまったく違っても、強弱記号の表記には一定の決まりがありますから、どうしても同じものを用いる必要があるのです。よって演奏者は作曲者がイメージした場面ごとに書かれた記号を読み取り、意図を汲む姿勢であることが絶対に必要なのです。そして、作曲者がどう思っているかにとどまらず「自分だったらどう演奏するか」を演奏に込めることで、あなたにしかできないユニークな演奏が実現するのです。

 

 

強弱記号と同様に、スラーも作曲者のイメージを汲む姿勢が大切です。作曲者が単に「タンギングをしてほしくない」からスラーを書いたと考えるのは少々考えにくいですよね。タンギングをしてほしくないのではなく、タンギングをしないで演奏したときにうまれる音楽が、作曲者のイメージに「より近い」と考えるのが妥当でしょう。

 

では、どのようなイメージを持っているのか。

 

大きな(複数の音符を統括している)スラーの場合、「フレーズ」を教えてくれてると考えます。

 

 

 

フレーズとは、「文章」です。

 

 

例えば小説は「あ」「い」「う」といった音(おん)の羅列によって作られています。

 

しかし、音(おん)だけをピックアップしても、ストーリーはおろか、意味すらわかりませんが、それらの音(おん)がグループになると、

 

「す い そ う が く」=「吹奏楽」

 

と、意味を持つ「単語」に変化します。

 

さらにこれらの単語が並ぶことによって「文章」が生まれます。

 

 

楽譜もそれとまったく同じです。ひとつひとつの音符は単なる音、いわば周波数でしかありませんが、それらがグループになると、旋律や和音、リズムになっていきます。

 

この音楽の流れの中にあるひとかたまりが音楽における文章、「フレーズ」と呼ばれるものです。

 

 

その「スレーズ」を楽譜で示しているのが、この場面のスラーです。

 

 

小説の「文章」はずっと音が続いているだけでなく、キリの良いところで間(ま)がありますね。「、」で表現することも多いですが、音読してみると自然に間(ま)を開けたくなる部分があるはずです。音楽ではそれを休符で表すこともしばしばあります。しかしフレーズの中にある間(ま)=休符があるからといって文章がそこで完全に分断させるわけではありませんよね。

 

そのような解釈でこの楽譜を読めば、スラーの中に休符があっても何もおかしくないことが理解できると思います。

そして、どのように演奏すれば「フレーズ感」のある流れを表現できるかもイメージできるのではないでしょうか。

 

 

楽譜を読む際はまず、作曲者が楽譜に書ききれなかった意図を汲むことが必要です。そして、「自分だったらこう演奏したい」とイメージを重ね合わせます。そうすることで、あなたや共演者にしかできないこの作品の演奏が生まれるわけです。

 

 

 

楽譜を読むって、決して機械的な解釈だけではないのです。楽しいでしょ?

[音のケンカにならないために/練習番号J]

冒頭の【作品を聴いて】の延長になりますが、積極的な奏者が多いバンドでは、しばしば「音のケンカ」「音量競争」が起こります。

それぞれの奏者が「自分が自分が!」と主張してしまうので、どんどん大きな音量を出し、バランスがとれなくなってしまう状態です。

 

演奏姿勢としては好感を持てますが、作品としてはこれでは完成しません。

 

みんなでひとつの作品を作るという姿勢、自分以外のパートに耳を傾けようとする姿勢を持ってください。

 

練習番号Jはほぼ全員が演奏をしていますが、グループに分けると5つの動きが存在しています。合奏中にそれらすべてを耳で捉えることができますか?

 

そして5つのグループとは?...スコアを見てみましょう。

 

 

 

 

 

ということで、この作品に関しては以上です。

 

もっと詳しく知りたい!実際の演奏がどうか聴いてもらいたい!具体的に上達したい!という方はぜひレッスンにお越しください。

 

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では、次回は5月4日(金)に最後の作品、課題曲Ⅴ「エレウシスの祭儀/咲間貴裕」の解説を掲載します。

それでは!

 

 

 

 

 

荻原明(おぎわらあきら)

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