課題曲 I  古き森の戦記/塩見康史

みなさんこんにちは!

トランペットを吹いたり教えたりしています、荻原明(おぎわらあきら)と申します。このサイトの管理者です。では早速、課題曲Iの解説に入ります。

【作品を聴いて】

この作品をスコアを見ながら聴いた最初の感想は以下の通り。

 

・吹くところが少ない

・音が低い(全楽器が中庸な音域ばかり)

・マーラーの交響曲第6番「悲劇的」の終楽章に似てる(主観)

 

 

コンクールのときは、課題曲の後に自由曲を演奏しなければならないわけですから、この作品の吹くところの少なさと低さがありがたいと感じる人も多いのではないか、と思います。しかし、だからこそ陥りやすいポイントがあります。

[全楽器がずっと安全圏の音域の作品]

 

低音域は低音域なりにしっかり鳴らすのにコツがいります。特に吹奏楽では高音域ばかりに目を奪われてしまい、低音域までの幅広い音域を演奏できる技術を習得しようとする意識を持っていない人が多くいらっしゃいます。

 

低音域を甘く見ていると、いざフォルテシモで鳴らそうとしたときに力ばかり入って音量が出せないともどかしくなる可能性があります。

 

しかもこの作品の場合、似たような音域でいくつもの楽器がゴチャゴチャと様々なうごきをしているところにトランペットが低い音域でメロディを吹かなければならないシーン(練習番号J)などもあり、これは合奏で音のケンカになる団体が多そうだな、という印象を持ちました。

 

吹奏楽はどうしてもフォルテシモへ向かう音量競争(戦争)になる場合が多々あります。特にこの作品は全部の楽器が演奏しやすい音域ばかりが続くために起こり得るように感じます。奏者だけの責任ではなく、オーケストレーションがそうさせてしまいがちです。

 

完成した作品にああだこうだ言っても始まらないのですが、この作品はそれぞれの楽器の安全圏音域を多用しすぎて、バンド全体の響きがゴモゴモとしているうちに終わってしまいます。奏者としては楽できるので良いのかもしれませんが、その楽器が映える抜きん出た高音域を鳴らす瞬間とか、地が震える低音域の鳴りを聴かせる場面が随所にあったほうが奏者の緊張感も聴く人の満足感も、作品の完成度もまるで変わってくると思いますし、課題曲であるなら、そういった表現の幅や技術力の判断ができる「チャレンジポイント」のような箇所がもっとあればいいのにな、という印象を持ちました。

 

それは余談として、この作品を演奏する場合、まずは自分(トランペットパート)以外がどんなことをしているのかを把握しましょう。そして合奏では自分が演奏しているときもそうでないときも、ほかの楽器の音を耳に捉えておくことが大切です。

お互いの仕事がわかっていれば「自分が自分が」と主張ばかりを繰り返す奏者にはなりません。誰が今スポットを浴びているのか、自分はどうあるべきか。そんなことを考えながら合奏に臨んでください。

 

 

[すべての音域をカバーする吹き始めを心がける]

さてこの作品のトランペット、出番がきて吹き始める音が全部低音からです。

 

トランペットを吹く人をこれまでにたくさん見てきて感じることの一つが、

 

「出だしの音に照準を合わせてしまう」

 

という吹き方です。

例えばHigh Bbからスタートするシーンがあった場合、High Bbの音を当てることばかり考えて、狙ってしまい、その先にある音などまったく見ていないのです。

 

仮にこれで最初のHigh Bbが当てられたとしても、その先が不安定になってしまう場面をよく見かけます。

 

 

この作品の場合は五線より下の低音域からスタートする場面がとても多いので、トランペット奏者は「まあ、どう吹いても当たるっしょ!」と緊張感を持たずに演奏を開始してしまいやすいです。

しかしそれが落とし穴になります。音域は低く狭いかもしれませんが、一応五線上のF音あたりまで上がってくるメロディがとても多いのです(というか低音から始まって上にあがって吹き投げるの繰り返しばかりですね)。

 

低音余裕~、と吹き始めてしまうと、意外に上のほうまでメロディが伸びていって、かっこよく決められない(音が鳴らない、口が閉まる)経験を何度となくする作品だと思います。

 

そうならないためには「吹き始めの音に意識を集中しないこと」が大切です。どんな音からスタートしようが、常に「全音域を出せる状態」であるよう、そういった技術を身につける練習をすることです。

 

吹き始めの音だけに視点を集中させるのではなく、楽譜はもっと広く見ておくことも大切です。

 

 

 

[低音を鳴らす]

出だしの低音域を鳴らすためにまず必要なことは、「どうしたら低音域が出るのか」その仕組みを理解することです。

 

トランペットの音域変化は、「アパチュアに流れる空気のスピード変化」。そしてもっと具体的に言えば「体内の空気圧の状態」がそれを決めています。

 

ですから、低音域を出すためにはアパチュアを流れる空気のスピードを落とす必要があるので、体内の空気圧を下げる=お腹の緊張を(中高音域に比べると)和らげると出しやすくなります。

 

しかし、空気圧は同時に音量にも影響を与えます。空気圧が下がると音量も同時に下がるので「フォルテの低音」が演奏できません。

 

 

この矛盾を解消するためには「アパチュアを流れるスピードが遅い充実した空気圧」を生み出すことです。

 

そのために必要なことは、口の中(特に奥)を中心とした空間を大きく用意することです。

 

口の中が大きければ、空気圧は多くてもスピードは上がりにくくなります。よってフォルテで低音を出すことができるのですが、このあたりの詳しいシステムやコントールに関しては、現在noteにて展開中の「ハイノート本 原稿先行公開」で非常に詳しい解説をしております。内容としては高音域の出し方なのですが、低音域はそれと正反対のコントロールなだけで、使う場所や意識する点は同じです。有料の記事になってしまいますが、それだけ異常な情報量ですからぜひご覧ください。

 

 

ということで、低音をフォルテで鳴らすためには、まずその原理と方法を理解することです。やみくもに、力まかせや当てずっぽな感覚で吹いていては、何度も音をはずしてしまいます。

 

 

では、作品の主要な部分だけピックアップして解説していきます。

 

 

[山型のアクセント(練習番号A,B,H,K,L)]

この作品、山型のアクセントが連発する箇所が多いです。

よく「アクセントはどう演奏すれば良いのですか」と質問を受けますが、それは「空の色は何色ですか?」と質問するようなものです。それだけの情報では答えられないのです。

 

なぜか。

 

アクセントに限らず、楽譜に書いてある記号というのはすべて、作曲者の「妥協」の塊なのです。その記号しかないから使うしかない、そんな感じです。

 

あなた自身が作曲家になったイメージをしてください。例えば、とてもとても嬉しくて飛び上がってしまう元気一杯のメロディを書きました。どんな強弱記号を書きますか?きっと「f(フォルテ)」とか「ff(フォルテシモ)」でしょう。

では、悲しくて悲しくて泣き叫ぶシーンには何を書きますか?やはりfやffではないでしょうか。

緊張感が続き、ついに大爆発!というアクション映画のワンシーンに音楽をつけます。きっとfとかffを書きますよね。

 

このようにして、同じ記号であってもその中に込められた感情や意味、伝えたいことは全然違うのです。教科書には「強く」としか書いていませんが、単にデシベル的音量を大きくしたところで、その中に込められた心がなければ何の意味もありません。

 

では、アクセントはどうでしょうか。

 

アクセントとは、「強調する」という意味で解釈されることが多いです。作曲者の立場になって、また、その作品を聴く人の立場になってそのアクセントがつく箇所がどのような結果になれば良いのかを強くイメージしてください。

 

ただタンギングを強くする=舌に力を込めるでは、奏法的にもまったくの間違いですし、結果も伴いませんし、何より作曲者が「この箇所のトランペット奏者は舌に力を込めてペッペペッペタンギングをしてもらいたい。よし、アクセント記号を書こう」なんて思って書くわけがないのです。

 

作曲者がどんなイメージを持ってこの記号を書き込んだのか、そして自分はそれをどのように演奏して聴く人へ伝えたいのか。そうすることで作品がどのように完成するのか、それをイメージし、実験し、必要であるならそれを実現するための奏法を研究して実践で使えるようにクオリティを高めることが大切です。

 

 

もしどうしてもアクセントのイメージが湧かない場合のオススメの方法は「真逆の演奏」をしてみることです。

 

アクセントは「強調する」わけですから、わざと演奏で「強調しない」「コソコソする」「目立たないように吹く」「印象を薄く」「誰にも気づかれないように流す」そんな表現を徹底させて演奏をしてみてください。作曲者が一番望んでいなかった結果になるはずですから、その180度反対の結果になることが求められていることである、とわかります。

 

 

[休符の力(練習番号C 1小節前など)]

 

休符は休む、と単純な解釈で演奏してしまうと、フレーズ感がそこで切れてしまったり、出遅れてしまったりと良くない結果を招いてしまいます。

休符はもちろん、長い間演奏しない場面にも使われますが、この箇所のような場面は、休符が強い表現力として発揮します。

 

例えばこの箇所の2拍目を休符を決して4分音符に変えて演奏してください。どうなりますか?

 

きっと音楽にスムーズな流れが生まるのではないかと思います。

 

では楽譜通りに戻しましょう。休符があることで、音のない時間=間(ま)が生まれます。音楽だけでなくこの間(ま)を上手に使いこなすことで、説得力がましたり、緊張感を生み出すことができます。この場面でも3拍目に向かうための休符が「力を溜める」要素になるので、3拍目のCの音が力強い演奏になります。

 

休符は「休む」のではなく、様々な効力を持った音のないパワーである、と認識してください。

 

 

 

[2拍で3連符(練習番号C 6小節目など)]

 

テンポがあまり速くない2拍を使った3連符は、リズムがあやふやになる人が多いです。

中でも、最初の音を長くしすぎて、うしろが詰まってしまう演奏になりやすく、そうなると結果的にポップスで多用されるリズムになってしまいがちです。

対策としては、最初の音を「こんなに早く切り上げてしまっていいのかな?」くらい2つ目の音をすぐ吹いてしまうことです。最初はリズムがおかしくなるかもしれませんが、「最初を早く切り上げる」スタンスを保つことで、上記のような楽譜を異なるリズムで定着することはなくなります。

 

最初から正確なリズムで演奏しようとぎこちなくなるのではなく、「陥ってしまう方向性」と「楽譜が求めているリズムの方向性」の違いを理解して、根本的な方向性を変えることで、徐々に修正できるはずです。

 

 

 

 

以上がこの作品を演奏する上で悩みやすいポイントではないか、と思います。

もっと具体的に知りたい!実際の演奏がどうか聴いてもらいたい!具体的に上達したい!という方はぜひレッスンにお越しください。

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では、次回は3月16日に課題曲2「マーチ・ワンダフル・ヴォヤージュ/一ノ瀬季生」の解説を掲載します。

それでは!

 

 

 

 

 

荻原明(おぎわらあきら)

© 2017 AKIRA Ogiwara

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